
フランス語を使って仕事をしている方にインタビューをして、現在の仕事を見つけたきっかけやフランス語の勉強方について聞いちゃおうという本企画。
6回目となる今回は、日本の美術品を所蔵する博物館に勤務するMさんです。
Mさんは僕の友人兼昔の同僚。
インバウンド業界の会社で、日本とフランスの友好の架け橋となるべく、共に奮闘をしていました。
今回は本企画の主旨に賛同し、快くインタビューに応じて下さいました。
インタビュー内容に入る前に、初めての方向けに管理人の自己紹介。
- 東京生まれ東京育ち、仕事の都合で現在関西在住の36才。
- 大学生の頃にパリへの交換留学を経験(約1年間)。
- インバウンド業界で8年以上、日々フランス語と英語を使って仕事をしている。
- DELF B2(フランス語)・ TOEIC 825(英語)
- アンサンブルアンフランセ公認インフルセンサー
- 「フランス語の仕事に就きたい」という人を応援するフランス語キャリアアドバイザー
1. Mさんのお仕事~日本美術を所蔵する博物館勤務~
Mさんは学芸員の資格をお持ちであり、
現在は日本の美術品を所蔵する博物館に勤務されています。
専門の美術史の知識とフランス語能力を活かして、主に以下の業務でフランス語圏の方々と関わっています。
・フランス語圏の美術館関係者が来日した際のアテンド
・在日フランス人学校に通う高校生と日本の高校生の交流プログラムの実施
・外国人の来館者を対象とした日本文化に関するワークショップの企画・実施

日本人として、日本の文化や美術をフランスや世界に向けて発信したい!
という想いを持って、日々お仕事に打ち込むMさん。
上記の想いを持つに至ったきっかけは、フランス留学での出来事が深く関わっていました。
その想いの原点に触れるべく、次の章でMさんの学生時代を見てみましょう。
2. 美術史・フランス語との出会い~大学入学からフランス留学まで~
Mさんは、「教師になりたい」という想いから、筑波大学に入学。

筑波大学には学際的な雰囲気があったことから、教職課程に必要な授業は取りつつ、興味の赴くままに様々な授業を受けられました。
今のお仕事にもつながっているフランス語は、大学入学時に第二外国語として選択。
フランスという国への漠然とした憧れと、「フランス語は第二公用語である」という実用的な理由が決め手だったそうです。
しかし、学んでいくうちに段々と面白くなっていっただけでなく、後述の美術史においても非常に重要な役割を占めたため、次第にフランス語は、Mさんにとって切っても切り離せない言葉となっていきました。
Mさんにとって、もう一つの重要な要素は美術史です。
実は美術史の面白さに気がついたのは大学4年生の時。

「美術史」という本当に勉強したいと思ったことにやっと出会えたのに、その時点ではもう4年生で残された時間も少なくて…。
と、少し切なそうにお話ししてくれたMさん。
卒業後にとある日本の企業に就職します。
が、その時点で既に、

ここでしばらく働いてお金を貯めて、いつかフランスにもう一度勉強しに行こう!
と考えていたそうです。
最初の企業に勤めて約3年、ある程度お金もたまり、いよいよフランス留学のために退職。
留学先はパリでしたが、最初の1ヶ月間は語学力を高めるため、知り合いが紹介してくれたトゥール近くの小さい村のご家庭でホームステイを経験しました。
その後はパリに移動。
パリ・カトリック大学付属語学学校にて2年間みっちりとフランス語を学び、
DALF C1を取得。

こちらの学校では一般的なフランス語だけでなく、ビジネスフランス語やフランス文化・宗教などの専門的な内容も学ぶことができました。
その中には美術史もあったため、Mさんは美術史の勉強。
中でも、ルーブル美術館の作品の前に立ち、通りかかったお客さんに解説をするという授業での経験は、現在のMさんに大きな影響を与えているそうです。
語学学校のプログラム修了後は、
本格的に美術史を学ぶためパリ第1大学(パンテオン・ソルボンヌ)に入学。
日本で取得したいくつかの単位が認められ、最終年次である3年次からの編入となりました。
Mさんのケースのように、日本の大学と全く同じ分野の専攻でなくとも、
編入や進学ができることがあるそうです。

このような単位互換がどこまで認められるかは大学や専攻によって異なるため、複数の大学に出願してみるのもよいかもしれません。
学士号取得後、Mさんは、そのまま大学院生としてパリ第1大学に進学。
続く2年次はパリ第4大学(ソルボンヌ)にて、念願の美術史の研究に打ち込みました。

フランスの大学では、編入・転入が当たり前のように行われており、Mさんのように3年次編入をしたり、途中で所属大学を変えることは決して珍しいことではありません。
3. 日本の美術をフランスへ~留学から帰国まで~
修士課程で念願の美術史の研究に没頭したMさん。

留学当初は、「フランスの芸術・文化を学んで、日本に持って帰ろう」と考えていました。
ですが、研究を続け、現地の人々と交流する中で自身の考えに変化が起こり、最終的には「フランス語というツールを使って、日本人の目から見た日本の芸術や文化をフランスに紹介しよう」と考えるようになりました。
美術史の研究においては対象作品が作成された当時の宗教観や政治情勢、
社会通念の知識が重要になってきます。
というのも、それらがその作品自体や制作過程に大きく影響を与えているからです。
Mさんは西洋美術史を研究していたため、時代ごとの背景知識が必要不可欠。
しかし、生まれながらにヨーロッパで育ってきたフランス人学生達の知識に追いつくことは至難の業であり、正直「勝ち目がない」と言っても過言ではありませんでした。

自分には何ができるのだろう…
と、Mさんはとても悩みました。
しかし、日本に関心のある先生や友人たちと話をするうちに、

そうだ!
自分が日本人であるデメリットではなく、自分が日本人であることのメリットに着目しよう!
と視点転換。
冒頭のように「フランス語をツールとして利用して、日本をフランスに紹介しよう」という考えに至り、『日本の木版画の技術が、フランスの芸術家達にどのような影響を与えたのか』というテーマにて修士論文を執筆されました。
こうした考え方の変化は、修士論文だけではなく、Mさんの生き方にも大きな影響を与えました。
修士課程を修了し、日本に帰国した後。
フランス語の能力を落とさないために
フランス語通訳案内士という国家資格の勉強をし、見事一発合格。
その後、現在僕が働いているインバウンド業界にの会社に就職され、

フランス語というツールを使って日本の素晴らしさをフランス人に伝える!
という想いのもと、僕と共にフランスからのインバウンドを盛り上げるために奮闘して下さいました。
そして、最終的には現在の日本の美術品を所蔵する博物館に転職され、
フランス語だけでなくご自身の美術史という専門性を活かして活躍されています。
Mさんも、そのお友達を含め色々なお知り合いに、「フランス語を使って仕事がしたい」と伝えていたそうです。
本当にこういったご縁がきっかけでフランス語関係の仕事に就けることもあります。

皆さん、できる限りご友人やお知り合いにご自身の思いを伝えるようにしてみて下さい。
きっとチャンスが広がると思います。
4. Mさんからフランコフォンの皆さんへのメッセージ
Mさんからは、まず「フランス語学習のモチベーションを維持する方法」について、
フランコフォンの皆さんにメッセージを頂きました。
5-1. 「フランス語を通じて実現したいこと」が、モチベーションになる

色々な方々が言われていることですが、語学はツールです。
そのツールを使って達成・実現したいことを思い浮かべることが、勉強のモチベーションにつながると私は思います。
私はフランス語を使って、日本の素晴らしさをフランス人に伝えることで、日本のファンを増やしたいと考えていました。
そうやって自分の夢のようなものを考えることで、勉強が辛いときも頑張れたと思います。また、フランス語そのものを楽しむために色々と工夫しました。
フランス語で戯曲を読んでみたり、歌が好きだったので、シャンソンを習ってみたり。
そういう風にフランスの文化というか、エスプリに触れることも、モチベーションの維持には大切なことだと思います。
5-2. 美術館・博物館・マスコミのコーディネートの仕事もある
Mさんは「フランス文化や美術が好きな方」のために、以下のアドバイスも下さいました。

フランス人は、文化や伝統を重んじる精神を根底にもっていると思います。
しかも、フランス人の美意識は、日本人のそれに通ずるところが多くあると感じます。
そのためでしょうか、フランスでは日本美術に関する展覧会が頻繁に行われています。
そして、日本の新聞社やテレビ局などの文化関連の部署では、現地取材をする機会も多くあるようです。
フランスの文化や美術が好きな方は、美術館・博物館のほかにも、マスコミ関係や、こういった取材をコーディネートするお仕事を狙ってみるのもよいかもしれません。
第5回の村田さんが、まさしく取材コーディネートのお仕事をされていましたね!
こういう仕事は、フランス人・日本人問わず、マスコミ業界においてニーズがありそうです。
À très bientôt
Kei
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